今年度の目標は、明治期以降流行し実践されていったさまざまな「術」の広がりを把握するとともに、諸術を考察する視点を獲得することであった。そのために月例会の開催及び各種の展示を見学した。そうした中で9月に共同研究者及び研究協力者とともに行なった熊本での調査研究旅行は有益であった。原田正純氏による「忍者」についてのレクチャーでは、小説や時代劇に登場する忍者のイメージとは異なり、「忍術」が兵法や肉体の鍛錬にとどまらず、日常の食事による健康の維持にはじまり、気象・地理・薬学など多方面にひろがる知識の体系であることが示された。こうした一体となった知識が、近代以降各種の「学」に分岐していく様態を探るのが本研究の目的であることをあらためて認識することが出来た。また熊本地方のフィールド・ワークとして、西南戦争の激戦地・田原坂などを見学し、メディアを通じて情報がどのように広まるのか資料の展示などを通して学ぶことが出来た。さらに心霊術に関して、熊本県立図書館などで当時の新聞をはじめとする資料の調査を行なった。 月例の研究会は3回行なった。久米依子氏による「『妖婆』から『アグニの神』へ魔術・コロニアリズム・ジェンダー」の発表。また奇術師から映画界に転じたフーディーニ主演の映画ビデオの解説と上映を會津信吾氏にお願いした。合わせて、ゲイビー・ウッド『生きている人形』、野崎歓『谷崎潤一郎と異国の言語』、プリースト『奇術師』などの読書会を行った。また、見世物と科学の関係を明らかにするべく「日本の幻獣展」(川崎市民ミュージアム)を観覧するなどしたほか、初期映画の上映形式を知るために活動弁士による上映会を体験した。
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