5月の研究会では、前年度末(2月〜3月)に中澤が行った津和野・益田の調査結果を報告するとともに、今年度の計画を話し合った。そんれに従い7月には中澤による尾上松之助の映画に関する報告を「松之助かた新東宝へ」という題目で行い、12月には久米依子「近代の美容・美顔術について」安田孝「子育て術研究序説」吉田司雄「離魂術あるいはファンタスマゴリアの近代」の報告があった。中澤の報告は無声映画をめぐるもの、吉田の報告は映画が重要な役割を果たす佐藤春夫の「指紋」など近代の小説を対象とした報告だった。久米の報告は、明治以降の化粧法を説いた書物に関する報告であるが、化粧品を使用した化粧をする前にまず心身の健康を説くなど、今日の化粧のイメージに異なるものであった。さらに安田の報告は、広く健康術に該当するものであるが、乳児を母乳で育てるべきか、牛乳で育てるべきかの論争を軸に、近代における牛乳の摂取を扱ったものであった。 以上の研究報告会の他、8月には熊本を中心とした調査旅行を実施した。熊本古武道保存会の副会長であり、自ら流鏑馬の師範をつとめる竹原陽次郎氏により、古武道の歴史やその保存と普及について講演いただいた。また見世物研究の一環として「活人形と江戸の欲望展」を観覧。千里眼実験の被験者となった御船千鶴子の出身地である松合を訪ねて現地調査した。 さらに前年度と同様、無声映画の弁士付き上演会として日本近代美術館フィルムセンターでの「滝の白糸」(弁士・澤登翠)を鑑賞した。
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