本研究はユダヤ系のドイツ語詩人パウル・ツェラーン(1920〜70)の作品における引用や暗示等の「間テクスト性」の問題を、蔵書調査等を通して実証的に解明するものである。本年度の実績は次の通り。 1.ツェラーンに多大な影響を与えた、ロシアの詩人マンデリシュタームとの関係を考察した論文「時の中庭に-ツェラーンとマンデリシュターム(3)」を「中央大学人文科学研究所紀要」に発表(04年10月)。特に詩論「マンデリシュタームの詩学」を翻訳(初訳)、詳細な註解をつけるとともに、詩における時間の問題を論じた。 2.04年8月にドイツ・オーストリアにて資料収集。ウィーンではツェラーンの親友で詩人のクラウス・デームスにインタヴューを行い、ウィーンにおける最初の出会い、「ゴル事件」、精神病などについてうかがうことができた。録音した一部をまとめ、「パウル・ツェラーンへの旅(5)」として「ツェラーン研究第7号」に発表した。 3.マールバッハのドイツ文学資料館で、ツェラーンの蔵書の書き込みを調査(04年8月)。ビンスワンガー『精神分裂病』への書き込みは、精神病理学者鈴木國文氏(名古屋大学医学部教授)と共同研究(口頭発表)「パウル・ツェラーンの精神的危機に関する文学的・病理学的研究」(04年12月5日、愛知大学)に役立てることができた。 4.調査した資料を基に、現在、ツェラーンの本格的な評伝を季刊誌『羚』に「評伝パウル・ツェラーン」として連載中。04年度は、第5〜8回を同誌の12〜15号に掲載。 5.03年の春と秋に行われた独文学会研究発表会における2つのシンポジウムの口頭発表を、論文にまとめ、「研究叢書」として刊行。一方のバッハマンの研究叢書では、編著も兼ねた。
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