本研究は、言語接触によって新たらしく生じた言語体系の形成過程を明らかにすることを目標としている。これを追究するため、人間の歴史が100年しかない南大東島の言語体系を対象にし、フィールド・ワークに基づいた理論的考察を行う。これまで南大東島の言語体系はほとんど調査されてこなかった。それは、沖縄県でありながら歴史が浅く、伝統的な方言が存在しないためだ。伝統方言の記述・分析が重視される言語学(方言学)において、新生言語体系を持つ南大東の優先順位が低かったのだ。しかし、南大東は、新しい言語体系の誕生過程を追究し、解明するには最適なフィールドと言えよう。近年、言語(方言)学は伝統的な言語体系の記述研究から、新生言語体系の形成過程の解明に重心を移しつつある。南大東の言語を研究する意義は、これまでのコイネ研究とピジン研究と間に位置づけたれる点にある。 2004年9月、ロングと中井が3人の大学院生と共に南大東島で現地調査を行った。琉球系と八丈系の両方において、老年層話者を対象に面接(録音)調査を行い、自然談話を収集と共に、かつてや現在の言語生活に関するデータを集めた。これ以外に、中高年層を対象に、八丈語残存状況、およびウチナーヤマトゥグチとの混合状況を明らかにするため、語彙・文法項目の調査票を用意し、それに基づいて、面接調査を行った。さらに、南大東小・中学校の校長や南大東村教育委員会の全面的協力を得て、小学生上級生および中学生の全員を対象に言語使用に関するアンケート調査を実施した。 滞在中に、島まるごと館館長の東和明副館長、照屋林伸教育長、教育委員会の宮城克行さんなど島の言語・文化関係者と会談し、島の社会言語的過去や現状について教えてもらった。
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