本研究では、結果構文、二重目的語構文、中間構文、場所倒置構文、使役移動構文など英語のさまざまな構文を対象に、そこで観察される多様な言語現象を、意味役割理論の観点から分析を行った。理論面では、Larson流の二層動詞句シェル構造の項位置に「動作主」「場所」「存在者」の3つのマクロな意味役割が結びつくとする仮定に加え、格付与のパタンを説明するための仕組み、主題役割の具現化に関する構造的原則、言語間の差異を説明するための空動詞要素のパラメター化などについて具体的な提案を行った。とりわけ、動詞句の構造を意味役割のパタンに基づいて決定することで、たとえば、二重目的語構文に生起する与格動詞・獲得動詞・創造動詞などは結果構文や中間構文には生起できないのに対して、逆にそれらの動詞の受動形は場所倒置構文に生起できるという事実などが、体系的に説明できることになる点は興味深いと思われる。これらの研究は、Thematic Structure : A Theory of Argument Linking and Comparative Syntax.のタイトルで筑波大学に2005年1月に提出された学位請求論文にまとめられた。また、上記の理論的枠組みに拠って、日本語のいわゆる被害者他動詞文(たとえば「私たちは空襲で家財道具をみんな焼いてしまった。」など)を分析した小論を、「状態変化主体の他動詞文-意味役割理論からの提案-」として発表した。
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