本研究は、「講義の内容がよく理解できない」という学部留学生たちの難題を解決するため、講義の理解を阻む要因がどこにあるのかを解明し、その成果を全学教育(学部1・2年生対象)の日本語授業の改善や、入学試験の実施方法の見直しへと結びつけることを目的としている。今年度はまず、「留学生たちの受けている講義がどのような言語学的特徴を持ったものなのか」を調査するために、大学の講義と他の授業との比較分析を行っている。基礎データとして留学生たちが入学直後に受講する全学教育の担当者3名の協力を得て、化学、生物、教育の各分野について講義を録音した。また、比較の対象となる授業として、留学生センターで開講されている上級者向け専門授業2つ(医学・日本語教育)の録音も行った。既に、データの文字化は終了し、現在は具体的な分析の段階に入っている。 分析は「語彙・表現」と「インターアクション」の2つのレベルで行う予定でいたが、実際に録音をしてみると、大学の講義では教師と学生の間にほとんどインターアクションが成立しておらず、分析の焦点をインターアクションから教師の発話にシフトする必要が生じた。具体的には、言い直しや言いかえなど、聞き手の理解を促進すると言われる言語的な修正がどの程度の頻度で生じているのか。また、その種類や特徴に違いはあるのかといった点である。また、同じ理解系の授業でも担当教員や専門分野によって専門語彙の頻度や難易度に大きな差があることが判明したため、これらの要因を分析の段階でどう考慮していくかが現在の課題である。来年度は今年さまざまな事情で収集できなかった日本語学校の講義を録音し、データの質と量を高め、更なる分析を進めていく。
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