研究目的 本研究では、言語産出の場合に、聴覚フィードバックの手法によって、発話の処理が阻害されるかどうかを、実証的研究により明らかにする。 研究テーマ (1)200ミリ秒という時間的な遅延の違いにより、発話がどのような言語上の影響をうけるのか、 (2)聴覚的遅延フィードバックによる効果は、言語行動と脳内処理の両面で見られる現象であるのか。 具体的な研究内容 産出したデータを録音し、産出時間を音声ソフトにより分析した。更に、産出時に近赤外分光法による脳内の酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの濃度変化を測定し、発話音声の変化した箇所との整合性を検討した。40ミリ秒をサンプリング時間とした。主な研究テーマは、次の通りであった。 (1)200ミリ秒の時間遅延の際に、2種類の母音長(短母音・長母音)を含む文章のどちらで、聴覚的遅延フィードバックによる影響が現れるか、 (2)該当する単語レベルと文章レベルの両方において、聴覚的遅延フィードバックによる影響が現れるか。 (3)聴覚的遅延フィードバックと、遅延のない自然フィードバックにおいて、違いは現れるか。 主な実験結果 (1)単語レベルではなく、文レベルで、聴覚的遅延フィードバック効果が見られ、自然フィードバックと比較して、発話時間がのびた。 (2)200ミリ秒の音響的遅延フィードバックの場合、長母音の方が短母音と比べ、酸素が多く消費された(deOxyHb)。発話開始時点から160ミリ秒にピークがあった。 (3)母音伸長する際に、酸素供給(OxyHb)が多くなされることが判明した。そのピークは、母音伸長開始時点から100ミリ秒であった。 (4)左半球ブローカ領域とその右半球相当部位で、発話成分が検出された。これは、自然フィードバックでも生じた。deOxyHb成分において、特にBA44において発話開始時点になって酸素消費量が増加することが確認された。 本研究の意義 脳機能イメージングにおいて、言語発話実験は極めて少ない。口・あごの動きによるノイズが多く発生するからである。本研究により、時間的精度の高い言語発話データが近赤外分光法により収集され、早期の発話反応が明らかになり、音素の違いによって、酸素交換の仕方が異なることが示された。
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