研究期間最終年度の本年度は、昨年度までに行った第一次世界大戦期の東欧とアメリカ合衆国における東欧移民に関連する文献と一次史料、新聞等の史料の収集・分析に基づき、さらに問題点を絞ったコミュニティ・レベルでの事例調査を行った。8月から9月にかけて、ハンガリーとスロヴァキアにおいて、9月にはアメリカ合衆国において史料収集と調査を行った。その成果は、複数の研究会において口頭発表を行っているが、本研究成果の一部を2007年6月に新潟大学で開催される日本西洋史学会のシンポジウムにおいて報告する予定であり、最終的には、2000年度に千葉大学に提出した博士論文を加筆・修正した内容とともに著書として出版する準備を行っている。第一次世界大戦は、アメリカ合衆国の東欧系移民コミュニティに、その社会的結合の再編をもたらし、チェコ系・スロヴァキア系コミュニティは、チェコとスロヴァキアが連邦国家として独立する構想を立案・実現する場となった。他方、ハンガリー系コミュニティにとって、1917年4月のアメリカ合衆国の参戦は、敵対国出身者となったために、より複雑な様相を示した。両軍への入隊、戦費調達のための国債購買運動・物質的支援の対象とそれらを促進したネットワークとリーダーを分析した結果、移民コミュニティは、合衆国の参戦前後で、愛国心と忠誠心の対象を故国から合衆国へと転換させたが、それは第一次世界大戦までに形成された社会的結合を重層化し、拡大する過程でもあった。労働力を補填するためにコミュニティの女性たちは職場に進出し、戦争を支援する女性団体も誕生したが、戦争未亡人の表象は戦争の支援活動の中で象徴的な役割を果たし、新たなジェンダー規範が形成された。労働組合や社会主義者が展開した反戦運動は、愛国心と忠誠心の表現と行為に対する新たな対抗軸を形成したが、それは近代の国民化における社会的結合の再編過程の一部でもあった。
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