研究概要 |
ミカンの皮にカビ発生させ、ミカンの皮とカビにおける炭素同位体組成の変化を調べる研究を行った.ミカンから繊維状のカビを採取した.また同様にミカンの皮を採取して比較に用いた.12mgから25mgのカビを線状酸化銅の助燃剤と共にバイコール管に入れて真空封管しこれを900℃に加熱してカビを燃焼して二酸化炭素に変えた.二酸化炭素は4-9mgが回収され、今回回収したカビには、重量比で35%程度の炭素が含まれていることが明らかとなった.一方、ミカンの皮については、40%の炭素収率が得られた.次にカビおよびミカンの皮から回収した二酸化炭素をグラファイトに変え、タンデトロン加速器質量分析計を用いて、炭素同位体(12C,13C,14C)の測定を行った.13C/12C比についてみると、カビはミカンの皮より大きな13C/12C比を示した.この結果から、カビの発生・成長における炭素取り込みに炭素同位体分別の影響が考えられる.また、14C濃度は、カビとミカンの皮とで誤差範囲内で一致した.以上のことから、カビが発生し成長するための炭素はミカンの炭素が使われたと考えられる.また、お茶に生えたカビについても、同様な実験を行い、カビとお茶の葉の炭素同位体組成はよく一致した.この結果は、上記の結論を支持する. 今回の研究から、カビとカビが生える基質の14C濃度が誤差範囲内で一致するが示された.このことから、文化財資料に発生するカビは、その資料自身に含まれる炭素を吸収して発生・成長することが示唆される.従って、カビの炭素は、基質の炭素と同じ14C年代を示すはずである.14C年代測定では、文化財資料に生えたカビは、もちろん取り除いた方がよいが、完全に取り除くことをそれほど厳密に行う必要はないことが示された.
|