本年度は、おもに前年度収集したデータの分析を中心として、以下の作業を行った。 1、近年の環境犯罪学、犯罪恐怖心、監視社会論をめぐる関連分野での議論をふまえて、犯罪の地理学的研究の成果と課題を整理し、2005年度人文地理学会大会で発表した。 2、犯罪の時間的・空間的クラスターを検出する空間統計学的技法について整理した後、新聞記事などの犯罪データを活用して、その有効性を検討した。さらに、「ひったくり」に着目し、京都府警との共同研究を通して、それらの有効性を検証した。その結果、「ひったくり」の空間的な分布に関する、社会地区分析的な解析の有効性が明らかになった。さらに、時空間スキャン統計量による時空間的な「ひったくり」の集積性検出とその可視化が、「ひったくり」の時空間的な分布特性の把握だけでなく、防犯・警戒態勢の妥当性の検証に有用であることが分かった。 3、大学生を対象にして、都道府県および東京23区に対する犯罪危険度の主観的評価、および犯罪情報の入手経路についてアンケート調査を行った。その結果、実際の犯罪発生率と犯罪危険度の主観的評価は、ある程度の相関関係はみられるものの、地域イメージによるバイアスを受けて、一定の乖離が存在することが判明した。また、居住地周辺の地域での犯罪情報は主に口コミで入手しているのに対し、他の地域については主にマスコミを通じて得られていることが確認され、警視庁等が公開している犯罪発生マップの認知率はきわめて低いことが明らかになった。
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