本年度も関連する刊行物の収集と分析、大阪府和泉市旧南王子村および徳島県三好郡東祖谷山村での調査資料の整理・分析を行なうとともに、新たに青森県三戸郡新郷村のキリスト祭りの調査、参考のために上杉氏の城下町として以前から有名な観光地の一つであった山形県米沢市と世界遺産に積極的な岩手県西磐井郡平泉町の中尊寺・毛越寺周辺の巡検も行なった。 まず、旧南王子村については昨年指摘した内容を再検討し、『国立歴史民俗博物館研究報告』第132集に投稿した(近日刊行予定)。特に、本稿では現代社会において「民俗」と表される事象は大きな社会的変化を迎えた段階で、新たな展開へスタートしようとする時、ともすれば見失いがちな自らのアイデンティティを再確認するため、現在の位置付けとの関連の中で直近の過去を再構成し表象したものとなっていること、そしてこのような「民俗」の性格を政治的批判の中だけに押し込めるのではなく、政治的、経済的、社会的影響の中で展開されているものとして分析対象化していくことで、より実践的な民俗理解の方法が提示できるのではないかという点を指摘した。 つぎに、東祖谷山村では2006年3月に周辺5か村と合併し新たに三好市が誕生したが、これにより従来まちづくりの主体の一つであった村役場が消滅したことで、新たな活動のあり方を模索せざるを得ない状況を迎えている。そこで、これまで得られた資料の分析を進めるとともに、町村合併による影響にも注目する必要性を痛感した。 また、新たに調査対象に加えたキリスト祭りは、中山間地域において戦前にナショナリズムや十和田湖観光との関連の中ではじめられたものであるが、行事の映像資料化とともに行政関係の資料についても収集・分析し、本研究課題の視点から上記の事例との比較を試みたいと考えている。
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