本年度は、写本カタログを手がかりに、各種「制定法書」写本の成立事情・内容構成などを検討する作業を行なった。写本カタログは、国内では閲覧できるものが限られているため、8月にイングランドに出張し、主としてオクスフォード大学ボドリアン図書館のデューク・ハンフリー・ルームおよびケンブリッジ大学図書館のマニュスクリプト・ルームに備え付けのものを利用した。 この作業を通して、さしあたり確認されたことは、「制定法書」写本には狭義の制定法のみならず、先例、法書、法的意見、私的な覚書、書翰など様々な性格の法的素材が含まれているという事実である。収録されている素材の属する時代と内容に即してあえて分類すると、第一に、アングロ・サクソン諸法典から13・14世紀の諸法典・特許状をほぼ年代順に収めた法集成、第二に、「ノルマン征服」を起点とする法集成、第三に、一二一五年のマグナ・カルタをはじめ多様な法集成、とりわけ令状方式書と共に伝来している実務的法集成がある。また伝来状況からは、個別修道院の実務書の中に取り込まれたもの、教会法ないし教会関係の諸文書と共に伝来しているものが少なからず存在する。また、都市の実務書(都市法・諸特権)と共に伝来しているものもある。これらの場合、収録されている法的素材は独自のものもあるが、共通のものも少なくない。それ等を相互に比較することによって、立法その他のテクストの流布・伝播のパターンをある程度確認することができた。
|