倫理的価値規範の形成過程をモデル化するための基礎的研究として、社会学や心理学における社会的規範あるいは規範一般や、その周辺領域の先行研究を検討する中で、新たなモデルにおける要因として、感情や記憶の重要性が明らかになってきた。社会的規範では様々な社会的制裁が重要な役割を果たすが、倫理的規範は主体の内的動機が重要になるためである。また、先行研究の問題点を検討することや、ゲーム理論モデルの応用における技術的な問題を国内外の研究者と議論することによって、(広義の)学習過程と、効用あるいは価値観の転換のモデル化を、概念的ではなく連結した理論モデルとして構成するためのアイディアを得ることができた。より具体的に言うと、どのような行動を「倫理的」と思うかについては、不完備情報のゲーム理論モデルをベースにし、規範形成については限定合理的個人の慣習形成の進化ゲームモデルをベースにすることを考えていたが、この二つのモデルを集団の意思決定モデルで連結するいくつかの候補が得られた。それぞれの部分モデルの詳細とその組み合わせ方については、残り2年の研究期間で最適なものを探求していくことになる。その他の課題の主要なものとしては、何が「倫理的」かについて、具体的なモデル化のために、数学的に厳密に定義することがある。社会学や心理学における様々な定義を踏まえて、その本質を失うことなく、しかしモデル全体の整合性・操作可能性も考慮しながら明確化していかなければならない。以上の中間的成果は、現在ディスカッションペーパーとしてとりまとめており、来年度、数理社会学会日米合同会議で発表する予定である。
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