研究概要 |
倫理的価値規範の形成過程のモデル化の最初の試みを,ディスカッションペーパーとしてとりまとめ,6月に数理社会学会日米合同会議で発表,さらに10月には韓国延世大学商経大学校との共同セミナーと神戸大学経済学部の六甲フォーラムでも発表する機会を得た。どのような行動を「倫理的」と思うかについて,不完備情報のゲーム理論モデルや限定合理的個人の慣習形成の進化ゲームモデルをベースにすることを考えていたが,それに加えて新たなアイディアとして,動物行動学(Ethology)の知見なども参考にして,共同体のリーダーの役割をモデルに導入することによって,利他的なプレーヤーの存在を所与としない倫理規範の形成モデルを考案した。具体的には,プレーヤーの異質性を許すことによって,規範の候補となる行動に関して,他のプレーヤーにその行動を取ることを説得・強制するだけの利得とコスト負担能力のあるプレーヤーが存在し得ることになり,その行動が結果として公共財的サービスを供給できれば,規範として受け入れられる可能性があることを示した。現在のところ,モニタリングが可能な比較的小規模の共同体を想定したモデルであり,このモデルの枠組みでの規範形成がより大きな「社会」でも可能かどうかは今後の課題である。また,昨年度の米国の研究者との意見交換に加え,インドの研究者との意見交換を行うことによって,伝統的価値観の強く残るインド社会における本モデルの妥当性についても有意義な意見を得ることができた。さらに,社会学を中心とするネットワーク分析の研究者との意見交換も行い,社会的ネットワークと規範形成の関係についても考察を進めている。
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