1.ファイナンス理論の中核であるブラック・ショールズの公式に代替し得る新しいファイナンス・モデルの構築を行う。古典力学を応用したブラック・ショールズの公式から導かれる金融派生商品の価格は、市場実勢値から乖離することが多く、実務上大きな問題になっている。このため、新たに量子力学の概念を応用した理論モデルを構築し、理論値と市場実勢値の乖離(アノマリ現象)という錯綜した事態の打開を図ることにした。 2.2年度は、初年度に続き、古典力学をベースとしたブラック・ショールズ・モデルの限界を明らかにすることにし、数学(確率論)及び物理学(量子力学)を利用して研究を行った。その結果、金融資産を物理量として把握した場合、確率空間における振る舞いを明確にしなければ論理的な整合性を確保できないことが判明した。さらに分析を進め、金融資産を量子化して考える場合、金融資産の存在する空間は複素ヒルベルト空間に拡張しなければならないが、この場合量子力学特有の不確定性原理をどう取り扱うかという難問を解決しなければならないことも明らかになった。 3.アノマリ現象を解明するための手法として、統計学的なアプローチ(ARCH-不均一分散を持つ時系列回帰分析)を応用した。GARCHモデルを利用して、フランスの株価インデックスであるCAC株式指数の実証分析を行ったが、このモデルでは時系列の誤差項を完全に正規分布化することができないことが判明した。このため、量子力学的な統計モデルを利用し、補正を行ったところ、まずまずの結果を得ることができた。但し、量子力学的モデルを確定するには未だ時間が掛かり、時系列の音声信号への変換やWavelet分析も含めて、今後比較検討を行ないたい。 4.金融資産を量子化して新たな運動方程式を組み立てる場合、株価は別として金利オプションのような経路派生型の金融商品については確率論的な手法(ブラウン運動)は不適であるとされてきた。しかし、金融資産を量子化すれば、全ての要素に量子力学的な力が働くので、汎金融商品的な手法を応用できることが明らかになった。 5.量子化の手法としては、重力と電磁気力の影響から開始し、原子核分裂を引き起こす強い力と放射性崩壊をもたらす弱い力に分解して検討することにしている。また、一般相対論を利用して運動方程式を構築することにしたい。
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