阪神淡路大震災以降、日本の防災体制は整備拡充が進んでいる。特に、阪神大震災において倒壊家屋あるいは家屋内の家具の転倒による死傷者が多かったことから、国、自治体の防災対策のなかでも、耐震化への取り組みが積極的になされてきた。研究では、現在の静岡県、愛知県における防災対策全般についての調査を行った。 地盤型災害への対応が進む一方で、津波対策へは、重点項目としては、なされてこなかった。 本研究では、研究期間内に、2004年9月5日の紀伊半島沖地震が発生し、さらに、2005年12月26日にインドネシアスマトラ地震が発生したこともあり、この地震発生に伴う津波からの避難行動、自治体の津波対策を中心に研究を進めた。研究成果報告では、津波対策に関して報告する。 日本の津波対策においては、地震発生から津波警報発令までの時間は短縮され、気象庁を中心とした警報発令システムが整備されている。しかしながら、今回の紀伊半島沖の地震時においては、警報が発令されながら、避難した人はきわめて少なかった。この事実は、今回の地震時だけではなく、近年の警報発令時に一般的に観察される事実である。では、このように、警報発令されても避難行動に結びつかないのは何故であろうか。この問題を検討し、警報発令以降の「曖昧な時間」の存在を指摘した。津波対策を立案する上では、この「曖昧さ」をどう低減するかが、重要な課題となる。 第二のスマトラ地震時の、避難行動の調査からは、インドネシアのアチェ州においては、地震津波連想(地震が発生したら、その後、津波が来るかもしれないという連想)がなかったことが、現地調査から判明した。驚くべきことに、津波を意味するローカル・タームすら、現地の人々の記憶から消えかけていた。そのため、人々は、津波への何の構えも、避難行動ないままに、津波にのまれ、被害を拡大した。さらに、地域社会の構造としても、津波への対応が「埋め込まれてはいなかった」。そのため、かつての王都であったバンダアチェの都市中心部まで、津波が浸入してしまった。 以上の研究から、津波対策の重要性と、警報発令後の「曖昧な」時間を低減することの必要性を、防災対策へ提言することができる。
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