今年度は、大きく二つの研究の方向性をもって研究を実施してきた。一つは、昨年度のナラティヴ論に関する文献収集、概念整理の基礎研究を受けて、特に死生臨床に関する文献収集を続行しつつ、そのベースになるケア概念である「コンパッション」(compassion)という概念に着目した。これは、日本社会福祉学会の学会誌『社会福祉学研究』に掲載が認められ一つの成果となった。ここでは、コンパッションの哲学的、思想的側面を特にHenri Nouwenの先行研究やキリスト教神学の研究から検討を試みた。このなかで、序論において、死の様態に触れ、他者の死への接近におけるコンパッションという課題について若干の検討を加えた。 二つ目は、死生臨床におけるスピリチュアリティ論とナラティヴ論の両者の関連について国内外の文献を蒐集し、その概念を自分なりに整理し考究していった。文献収集のみならず、フィールド調査も実施し、沖縄、静岡、東京、京都などにおいて関連施設でインタヴューを実施した。これらのなかからの一つの課題として、以下のことが明確になった。それはスピリチュアリティとナラティヴの関係性である。両者は基本的にそれぞれ独自の領域であるとされるが、この両者がどのように統合され、、それが死生臨床上におけるケア実践のなかでどのように位置づけられ、概念化されるのかが極めて重要であるとわかり、それを検討した。特に「死」と表裏一体である「生」の概念である子供の領域に目を向け、子供の領域における死生臨床とソーシャルワークの理論的枠組みをスピリチュアリティとナラティヴ論の密接な関連から検討した。
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