今年度は、昨年度のナラティヴ論に関する文献収集、概念整理の基礎研究を受けて、特に死生臨床に関する文献収集を続行しつつ、昨年度から課題の一つとなってきた、死生臨床におけるスピリチュアリティ論とナラティヴ論の両者の関連について重点的に国内外の文献を蒐集し、その概念を、自分なりに整理し考究していった。 この成果は、下記の関西学院大学のCOEの論集に掲載された。文献収集のみならず、フィールド調査も実施し、関連施設でインタヴューを実施した。これらのなかからの一つの研究の方向性として、抽象度の高いスピリチュアリティとナラティヴの関係性についての議論の必要性が明確になった。両者は基本的にそれぞれ独自の研究領域であるとされてきたが、この両者が臨床上において、あるいは実践的課題のなかで統合され、それが死生臨床理論上におけるケア実践のなかで一体として位置づけられ、概念化されるのかが極めて重要であることを確認した。 今回は、これまで死生臨床というフレームで中心的課題として捉えてきた「死」と表裏一体である「生」の概念である、子供の領域に目を向け、子供の死生臨床とソーシャルワークの理論的枠組みをスピリチュアリティとナラティヴ論の密接な関連から例証的に検討した。特に被虐待児童の自らの生のありかた、あるいはアイデンティティをめぐる、自らの出生の真実告知との関連において、スピリチュアルケアとナラティヴ論を同時並行的に追求したことが特徴である。
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