本研究は、母子世帯の貧困・低所得をめぐる現代的態様に焦点をあて、ワーキング・プアといえるわが国の母子世帯の実態の背景と、それに対応するワークフェア政策のあり方を検討するための基礎的研究を行うことを目的としている。 わが国の母子福祉政策は、平成14年制定の「母子家庭等自立支援対策大綱」を基点に「福祉から就労へ」という方向性を明確に打ち出し、就労による自立促進を政策目標として掲げた。このような動向は諸外国の趨勢と機を一にするものであるが、日本の母子世帯については、一貫して高就業率を維持してきたにもかかわらず、貧困・低所得が緩和・解消されないばかりか格差の拡大が持続している点に着目する必要がある。そこで本研究では、生活保護受給母子世帯に焦点をあて、母子世帯の世帯保護率の低下傾向の実相と、その背後にある被保護母子世帯の自立過程の態様を析出するための調査研究を計画した。 本年度は、全国の福祉事務所を対象としたアンケート調査を実施し、おもに(1)被保護母子世帯の就労自活を阻害する背景要因、(2)保護開始理由と保護廃止理由に関する近年の動向、(3)就労指導の実際とワーカーの意見、を柱として現状を把握した。その結果、近年の保護廃止理由としては、「その他」に該当するケースが4割前後を占めているにもかかわらず、その詳細に関する統計は各機関において十分に把握できていないために、保護廃止の実相が不明瞭となっている現状が明らかとなった。また、長期不況といった社会経済動向のなかで、就労指導による自立という方策の限界を指摘する意見も多く出されており、日本的土壌に立脚した自立支援策の検討が必要とされることが明らかとなった。これらの点は、次年度の質的研究において更に深める予定である。
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