研究概要 |
本研究(計画)の最終目標は,通信制高等学校に通学する不登校生徒の社会適応と社会参加を育成するための心理教育プログラムを開発・実践し,その効果を査定することにある。本年度はその初年度にあたり,彼らの心理的特徴とニーズを調査・分析して,教育プランの目標を定めることにあった。 ニーズ調査は以下の手順で行った。4つの要因(学業,対人関係,自己認識,卒業後の社会参加)を取りあげ,それぞれに2水準を設定して(e.g.,"求める"-"求めない"),各水準を様々に組み合わせたニーズ調査票の各項目に5段階で答えてもらった。調査票の作成と評定値の分析はコンジョイント分析によった.結果は,自己認識と対人関係に関するニーズが,ほかの要因に比べて相対的に重要視されていることが分かった。また,将来の社会参加に必要なスキル習得のニーズも学業の向上よりも相対的に重要視されていた。 この結果を踏まえて,次に,対人関係と自己認識に関する質問紙を作成して,同じ高校に通う同学年の通信制課程の生徒と全日制課程の生徒全員に自記式で答えてもらった。全日制生徒と比較することによって,通信制課程の生徒の心理的特徴を抽出しようとした。調査項目は具体的には,自尊感情,対人態度,自己認識,共感性,情動制御,ストレス対処,社会的スキル,自己開示に関するものであった。主成分分析と項目分析を行って,それぞれの分析対象項目を選定した。ここで選定された項目は次年度以降の授業実践の効果測定項目として継続使用される。今回の合算得点は今後のそれぞれのベースライン得点となる。全日制生徒と比較した通信制生徒のベースラインの特徴は,自尊感情の低さと自信のなさであった。また,共感能力や対人関係構築・維持スキルにも著しい稚拙さがあるという現状が明らかになった。この結果を踏まえて,現在,自己認識と他者の視点取得の向上に関わる授業教材を4章立てで作成中である。
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