研究概要 |
本研究は,わが国で行われる学力調査の結果を比較可能とする測定尺度の開発し,将来の大規模学力調査に関する方法論についてモデルを提示することを主たる目的としている。さらに,大学入試のあり方など,わが国の教育レベルを実際的に支える重要な教育的営為に関して,それを改善し,適切に評価するための方法論について検討している。 3年計画の2年度目となる本年度は,高校と大学の接続問題の枠組において,大学が自らを改善しようと試みる努力が高校生にどのように理解されているかを知るため,高校生が見た大学のイメージに対して学部名称をキーとして,対応分析を用いて検討した。その結果,伝統的な学部名称の方が良いイメージであることが分かった。また,アメリカで開発された学力診断のための測定論的モデルであるルール・スペース法について,その理論の概要,および,TIMSSなどに適用して各国の学力特徴を現した応用例などを紹介した。 1960年代末から米国の学力動向を検討する材料を提供してきたNAEP(全米学力調査)に関しては,昨年度までに入手した資料等を基に概要をまとめた。特に,NAEPの問題設計の考え方,および,昨今,わが国では特に学力が低下していると指摘されている数学,科学(理科)の分野に関する知見について論じた。さらに,21世紀に入ってブッシュ政権下でNAEPそのものが変質していった様相を概観した。 大学入試の追跡調査に関しては,東北大学歯学部のデータを用いて相関分析的手法による研究の方法論的な問題点を指摘し,大学入試の評価方法に関する提言を行った。また,戦後にわが国で行われた各種の学力調査を中心に報告書を検討した結果,モニター調査の原資料となるべきデータが残されていないことが確認された。 来年度は,それらの知見を基に,主に学力調査や大学入試の技術的な変遷と経年的な調査に必要な技術の理論的な検討を試みる予定である。
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