昨年から手がけてきた、教育現場で使用されている教科書(国語・歴史を中心に)の分析をすすめた。今年度は、先住民文化に関する記述とは別に、それと国家との関係さらには国民文化、グローバリゼーションがどのように関わったかにも注目した。近代化のテーマが地理の分野で広く扱われていることが判明した。昨年同様、2重言語教育の実態および、そうした教育政策に関する意識を生徒、教員、保護者にそれぞれ個別に調査した。2重言語教育になじみのない都市部とそれが身近にある地方の農村部とでは意識にばらつきが見られた。これは、2重言語教育という政策そのものが、国家レべルの施策としっかりと認識されていないことによると思われる。また、2重言語教育と多文化教育との区別が現場の教員にも認識されておらず、2重言語教育をもって多文化教育に代えられる傾向にあることが分かった。先住民政策に変革がおこった1970年以前に教育を受けた親の世代と、それ以後の世代との間に、異民族・異文化についていかなる認識の相違があるかに関して予備的な調査を行った。その際、インフォーマントに対し調査中は「異民族」「異文化」を具体的に示さなかったが、最終的に得られたデータは、都市部では、「アメリカ合衆国」「ヨーロッパ」といった回答が多かったが、地方では近隣の民族名(たとえば、オトミ、ナワなど)がしばしば出てきた。こうした現象は、学校教育の普及によって顕現するものなのか、それともマスコミの影響であるのか調べる必要がある。本研究で扱うべき問題は、メキシコの多文化教育の「綻び」であるので、現行の取り組みについての意見を求めた。都市部と地方とでは、これまた反応が異なった。概して、都市部では、スペイン語の話者がほとんどであるので、多文化教育が行われていなくても、その実施そのものに関しては不満は少ない。しかし、現実に、それを実施している現場では、経済的支援の不足等を指摘するインフォーマントが多かった。今年度に実行できなかった部分は来年度に回し、最終年となる来年度には報告書を提出予定である。
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