【目的】本研究の目的は、対人認知の動的側面に関わる高機能広汎性発達障害児者(HF-PDD児者)の認知過程の検討である。これまでのHF-PDDの対人認知過程研究は静的側面しか扱っていない。本研究は、この点で新たな対人認知過程研究の展開につながるものである。 【方法】3つの実験を行った。1)対話ペア判断実験は、2者の対話場面を複数ビデオ撮影し、場面1のA者とB者、場面2のB者の3画面を刺激画面に配置し、A者の音声のみを再生した条件で、どちらのB者がA者と対話しているかを判断する課題である。2)モノローグ再生速度減速点検出は音声を消したモノローグ場面の再生速度減速点を検出する課題、3)モノローグ音声表情ミスマッチ検出はモノローグ場面の音声と表情タイミングがずれているか否かを判断する課題である。これらの実験についての予備実験を、定型発達成人(大学生)とアスペルガー成人(AS)1名で行った。 【結果】1)対話ペア判断実験は、平均判断時間(RT)が大学生では8.8秒である一方、ASでは68秒と大幅な遅れを示した。またASの場合、対話の順番取りが行動上明確な刺激のRTは40秒以下だが、不明確な刺激では100〜120秒であった。大学生のRTは刺激種類で異ならなかった。2)再生速度減速点検出のRTはAS>大学生であり、1/4倍と1/2倍再生でASが4秒弱で大学生が2秒弱、3/4倍再生ではASが約13秒で大学生が約8秒であった。3)音声表情ミスマッチ検出のRTはAS>大学生であり、音声遅れが10・15・20フレーム(1フレーム=30msec)のそれぞれで、AS=7・8.5・5.5秒、大学生=3.6・3.1・2.4秒であった。5フレーム遅れでは、ASは検出不能であり、大学生のRTは20秒であった。 【考察】今回の3実験全てでAS被験者が対人認知の動的情報処理が定型発達より困難であるという結果となり、対人認知の基礎的過程に特異的な弱さのあることが示唆された。
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