研究概要 |
1.数式処理ソフトを使って変数の数が大きい多項式の解析を行った結果,有限素体上の有限環で通常のアファイン環に対応する環の存在がわかった.これを使って,有限のカテゴリーでの「代数幾何学」を構築できる可能性を見出した.この新しい「幾何学」は厚生経済学等における諸結果(アロウの定理,センの定理,投票戦略理論等)をうまく説明できる.また,逆にアロウの定理が興味深い多項式を導出することもわかった. 2.1の分析により,投票理論に関しては位数2の有限体よりも位数3の有限体で扱う方が幾何学的にわかりやすいことも分かった.これは,投票において,棄権を認めることと同等であり,棄権を認めることは数学的にも意味のあることになる. 3.個人の選好に関するセンの定理を有限代数幾何学によって解析した.その結果,少なくとも数学的には,センの選んだ条件は強すぎることがわかった.他人の選好に関わらず自分が決定できる選択を認めるというセンの仮定を,自分以外が棄権するような事柄に関しては,自分が社会の選択を決定できると弱める方がより簡明な幾何学的記述を持つことが示された. 4.投票者の数や選択肢の数が大きい場合のシミュレーションを行った結果,社会の決定に関する多項式は比較的単純な構造をしていることが予想される.これは今後の課題である.
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