研究概要 |
平成18年度は,非線形分散型方程式であるKorteweg-de Vries方程式に,時間空間ノイズを乗法的に付加した揚合,解の時間無限大での漸近挙動がどのように変化するかを研究した.昨年度は時間ホワイトノイズを乗法的に付加した場合について研究したが,今年度はより物理的に自然な設定である時空間ノイズを考えた.時空間ノイズを付加した場合,まずその特異性により解の存在が問題となるが,今回は解の時間無限大での漸近挙動を解析することに焦点を絞るため,時間変数に関してはホワイトであるが空間変数に関しては正則である時空間ノイズを扱った.(空間変数に関して正則とは,空間変数のフーリエ成分が高周波帯で速く減衰するノイズのことである.)空間変数に関し正則なノイズに対しては,無限次元空間においても伊藤積分が数学的に厳密に定式化できるため,確率微分方程式の可解性に関しては扱いが容易となる.しかし,たとえ空間変数について正則であっても,すべてのフーリエ成分を含んでいるため,その解析は複雑である.このような乗法性ノイズを付加した場合に,ほとんどすべての個別解が時間無限大でゼロに収束する十分条件を,ノイズの共分散作用素に関する条件として与えた.この条件は,Caraballo, Liu and Mao(2003)が乗法性時間ノイズを付加した確率非線形放物型方程式に対して与えた条件の,時空間ノイズへの一般化となっている.このような現象は「ノイズによる安定化」(Stabilization by Noise)と呼ばれ,常微分方程式や放物型方程式では古くから知られていた.(たとえば,Has'minskii, Stochastic Stability of Differential Equations(1980)において指摘されている.)しかし,Korteweg-de Vries方程式のような保存系に対しては,このような結果はほとんど無かったと思われる. 時空間ホワイトノイズのような空間変数に関して正則でない時空間ノイズは,今回の研究では扱うことができなかった.これは,今後の重要な課題であろう.
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