研究概要 |
Eulerの五角数定理と,その一般化を,無限サイズの行列に関する跡等式と捉え,二つの行列のトレースの差がアノマリーとして析出する様子を函数解析的枠組み,特に,総和法との関連で見直すというのが,研究の主目的であった.これと関係して,有限群,特に対称群と有限体上の線型群,の共軛類の箇数について,その類似性と双対性に着目しつつ考察を加えるという「萌芽的視点」に重点をおいて,本年度の研究をすすめた.双対性という観点からは,表現の誘導という概念について,その一般化の基礎に考察の中心をおいた.これは冪剰余記号の定義を含むtransfer概念の一般的枠組みを与えるが,その定式化自体に,誘導表現を大きく一般化する内容を蔵しており,dual pairの原始形というべき双対性が潜んでいる.今年度の研究はこの点に重点をおいた.特に,ここではwreath積という群構成がきわめて重要であることを見出し,定式化の明快な理解を得た.これによってある種の双対性が広範囲に取り込める.これを五角数定理とその一般化に生かすところまでは至っていないが,関連していくつかの観察を得た.一つはごく簡単なwreath積にも超幾何的多項式(Jacobi多項式)が現われること(これ自体は古くから知られ,最近では一般化もなされている)であり,もう一つはPainleve方程式のBaecklund変換を表わす双有理変換が,上記の「誘導」の枠組みで捉えられることである.この観察をさらに深めれば,五角数定理自体に見られる双対性の由来を,新たな視点から解明できる可能性が生じてきた.この興味深いテーマは本研究の収穫である.もともとの研究動機であったdual pair理論との関係解明が,ここで佐藤のソリトン理論(無限次元Grassmann多様体)を媒介としてつながるのではないかという当初の目論みに一歩近づいたと言える.
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