本研究はニュートリノにおけるCP非保存探索など将来の精密ニュートリノ振動実験で必要となる、反ニュートリノビーム生成の基礎技術やニュートリノ反応断面積の基礎データを収集することを目的とする。H16年度はKEKで進行中の長基線ニュートリノ振動実験K2Kにおいて、反ニュートリノビームを生成し、前置検出器でその反応を観測、測定することを目指し準備を進めた。ニュートリノビームは陽子ビームを標的に入射し生成されるπ中間子が、電磁ホーンと呼ばれる収束装置で前方へ収束され、崩壊領域と呼ばれる自由空間を飛行中に崩壊することにより生成される。反ニュートリノビームは電磁ホーンの極性を反転させることにより得られる。 H16年度はまず、(反)ニュートリノビーム生成のシミュレーションを行うことにより、反ニュートリノビームの強度、エネルギースペクトル、組成(純度)などの期待される各種性質を調べた。その結果、反ニュートリノビームの強度は(正)ニュートリノの強度に比べ約半分であることがわかった。平均エネルギーは反ニュートリノビームの方が約160MeV低いことがわかった。次に、この反ニュートリノビームが検出器でどのように観測されるか、シミュレーションを用いて評価した。一ヶ月(5x10^<18>陽子)でK2Kの前置検出器のSciBar検出器(約10トン)で、435個の反ニュートリノ反応が期待され(ニュートリノビーム運転時の約4割)、数ヶ月測定を行うことで反ニュートリノ反応の基礎的なデータ収集は可能であることがわかった。このとき、不純物として混入する(正)ニュートリノの反応数は反ニュートリノの反応数の約16%であることがわかった。 並行して、反ニュートリノビームを生成するために実際にホーンの極性を反転させるために必要な作業の検討、準備も進めた。そのさなかに、実はK2K実験は2004年11月に電磁ホーンの1台が故障し、運転を休止した。ホーン近傍は残留放射線が強いため修理交換が難しい。故障したホーンはそのままにしておいて、下流に新たにホーンを追加することにより反ニュートリノビームを生成し、前置検出器で反ニュートリノ反応の研究することの実現可能性を物理的観点、技術的観点双方から検討した。
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