樹枝状結晶の成長モデルは、樹枝の先端部がつねにラフな界面であり、表面(界面)の曲率によるギブストムソン効果による融点降下と熱拡散場との相互作用によって先端形状が決まるということをベースに組み立てられている。しかし、樹枝状結晶の典型である雪の結晶では、ファセット面で囲まれた場合と丸いラフ面で囲まれた場合がある。 今年度は、まず新しい拡散型の人工雪結晶成長装置を開発した。この装置では、装置の直径と高さのアスペクト比が5:1になるように設計された。これにより、安定して水蒸気の過飽和条件を作り出すことが可能になった。 この装置により、-15度Cにおいて過飽和度を変化させながら雪結晶の成長実験を行った。その結果、ファセット面で囲まれた樹枝先端からラフな面で囲まれた丸い界面への遷移が実際に起こっても良いことを示唆する結果を得た。今後、過飽和度の定量化と雪結晶の3次元解析を可能にするための干渉光学系を構築する予定であり、これらにより次年度は樹枝状結晶パターンが遷移する臨界条件を決定するための実験を実施する。 一方、特殊な蛋白質(不凍タンパク質タイプI)を含む過冷却水中で氷の樹枝状結晶を成長させると、樹枝状結晶が厚みが極端に大きい"リボン状"樹枝結晶が生成することを発見した。このような形状の樹枝状結晶は、氷の結晶は言うまでも無く、他の物質の樹枝状成長パターンでも従来全く報告されたことの無く、本研究課題でなされた新発見である。このような樹枝状パターンは、従来の結晶成長モデルでは全く取り扱いが困難である。次年度は、この結晶についても、さらに生成条件を確定するための実験を行う。
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