カーボンナノチューブのフェルミ準位近傍の微細電子構造を決定する事を目的として、高分解能光電子分光装置の建設・改良を行った。具体的には、清浄試料表面作成用の電子衝撃高温加熱機構の設計・製作を行った。また、4Kから1000K以上の極端温度状況に耐えられるモリブデン製試料基板の設計・製作を行った。さらに、清浄試料表面を現有の高分解能光電子分光装置に超高真空下で搬送するための、ナノチューブ試料in-situ搬送機構の設計を行った。建設・改良した装置を用いて、カーボンナノチューブの電子構造を理解する上での参照物質となる高品質キッシュグラファイトの超高分解能角度分解光電子分光測定に成功し、価電子帯およびフェルミ準位近傍のバンド分散を精密に決定した。価電子帯では、炭素の2p軌道のσ結合およびπ結合に対応した明確なバンド分散を観測し、第一原理バンド計算と定量的に一致する事を見出した。また、ブリルアンゾーン中のK(H)点を中心とした非常に小さなホール的フェルミ面を観測した。さらにこのホール面を形成するバンドの近傍で、バンド計算では全く予想されない分散を殆ど示さない新たな構造を見出した。この事は、角度分解光電子分光によって初めてエッジ局在状態が観測された事を示唆している。さらに、フェルミ準位近傍100meVにおいて非常に鋭い準粒子ピークを見出した。スペクトル形状の定量解析を行い、この準粒子ピークがグラファイト表面における電子-格子相互作用に帰属されると結論した。
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