本研究では、強磁性金属/近藤合金細線接合を用いて強磁性金属から近藤状態にスピン偏極電子を注入し、界面において生じるスピン蓄積の近藤状態への影響を調査することを目的としている。 まず、本研究では、スピン蓄積の明確な証拠を得るために、Co/CuFe/Co接合試料を作製し、これまでに多くの研究者により行われてきた非局所電極配置によりスピン蓄積効果を計測した。その結果、Co電極の磁化が平行から反平行に遷移する際にスピン蓄積信号の飛びが観測された。このことは、少なくとも本研究で用いたCo電極間隔0.5μm程度の試料に対してCo/CuFe界面にスピン蓄積が生じていることを示しており、スピン拡散長は0.5μm以上であると推定される。また、トンネル伝導による高効率なスピン蓄積効果を期待して、本研究で新たに設置したAl蒸着用のK-cellにより、界面に極薄のAlOx絶縁層を形成し、同様の測定を試みた。その結果、AlOx層を挿入した試料においても同様にスピン蓄積信号が観測された。このことは、スピン蓄積信号に対する界面付近でのCo原子とCuFe中のFe不純物との直接的な交換相互作用の効果が小さいことを示唆している。しかしながら、これらの結果はどのような試料に対しても得られる訳でなく、接合界面のモフォロジーに大きく依存すると考えられる。より系統的な結果を得るために、界面状態の制御を視野に入れて研究を継続している。また、スピン注入時における近藤状態の変化の直接計測ための新たな試料設計も検討する必要がある。
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