コルビノディスク(CD)形状の電極を持つ厚い(100nm)アモルファスMo_xSi_<1-x>超伝導膜を用いて、半径方向に歪みをかげながら回転運動させたボルテックスグラス(VG)系のダイナミクスを調べた。これまでに、駆動力(電流I)の増大と共にプラスチックフローから液体的フロー状態への変化を示す電圧(V)及び電圧ノイズの上昇を観測したが、本年度は特に、同一半径方向に並んだ2つの電圧端子(内側:V_<12>、外側:V_<23>)によりVG系のダイナミクスの空間依存性を調べることを目的とした。 測定は主に電流電圧特性及び電圧ノイズ測定である。内外端子における電圧比V_<12>/V_<23>は、低電流域では大きな値をとり、電流を増やすに従って減少し、ボルテックスが液体的に振舞う場合に期待される値に漸近する。これは次のように説明できる。CDではボルテックスに働く駆動力は半径に反比例するため、外側のボルテックスの速度は内側に比べ遅くなり、その分ピン止め力の影響を受けやすくなる。したがってV_<12>/V_<23>は低電流で大きな値をとる。ピン止めの影響はボルテックスの速度が速くなるに従い小さくなるので、電流が増加するにつれて内側外側共に液体的な振る舞いに近づいていく。 またVG相では、ある電流域で1/f型の電圧ノイズスペクトラムが観測された。2つの電圧端子における電圧ノイズからコヒーレンス関数hを求めた(hは2点におけるボルテックスの速度相関が大きいほど1に近づく)。hは電流の増加に伴いほぼ単調に増加し、液体相に近づく高電流域では減少した。これは駆動力が大きくなるにつれて、駆動された渦糸同士の速度相関が一時的に大きくなることを意味する。すなわち、駆動力増大に伴いピン止めの影響が小さくなると、プラスチックフローが液体フローに移る直前に固体の塊のようなものが系内に形成され、固体の秩序を一時的に回復することを示している。
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