研究概要 |
コルビノディスク(CD)形状のアモルファスMo_xSi_<1-x>膜を用い,(1)マイスナー相と(2)渦糸グラス相において,印加電流により回転駆動させた超伝導渦糸系のダイナミクスを調べた。 (1)矩形型試料に直流電流を流すと,マイスナー相で大きな広帯域電圧ノイズが現れる。これは自由な渦糸の生成と対消滅に伴う数ゆらぎによる。CD型試料では渦糸と反渦糸は互いに逆向きに回転し,衝突することによってのみ消滅するので,渦糸の数ゆらぎが強められると期待される。実際に一定電流の下で電圧の時間変化を測定した結果,渦糸の回転周期よりもはるかに長周期の異常な自発的電圧振動を観測した。これは,渦糸の集団的な生成・対消滅に伴う大きな数ゆらぎを示す。さらに,電圧波形を見ると,常伝導の電圧値を一時的に超える瞬間があることもわかった。これも渦糸の大きな数ゆらぎに起因すると考えられ,通常の超伝導状態では見られない新規な現象である。 渦糸の閉じ込め効果のみをもつ円筒形試料,さらに通常の矩形型試料についても同様の測定をした結果,周期性は乏しいものの,やはりある種の電圧振動が観測された。したがってこの電圧振動現象は,超伝導が壊れて常伝導になる付近で起こる,極めて普遍性の高い現象である可能性がある。 (2)つぎにCDにおいて,半径方向に歪み力をかけながら回転運動させた渦糸グラス系のダイナミクスを調べた。これまでに,印加電流の増加に伴いプラスチックフローから液体的フロー状態への変化を示す電圧および電圧ノイズの上昇を観測してきたが,本研究では,同一半径上に並んだ内外2つの電圧端子で,電圧および電圧ノイズを測定し,渦糸ダイナミクスの空間依存性を調べた。その結果,通常の渦糸格子系で見られるプラスチックフローとは異なる,運動の初期状態から横方向の速度相関が失われた液体的フローに近いプラスチックフローが観測された。また,内側と外側での電圧ノイズの相関を求めると,ある電流域でピークをとった。これはこの電流域で,回転するプラスチックフロー中に渦糸の固体片が存在していることを示している。
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