研究概要 |
量子コンピューター開発のためのqubitの探索・開発などを背景にカーボンナノチューブ,ナノドットなど現代は,このような物質群に代表されるナノマテリアルの研究が大変盛んとなっている。また,ナノサイズまでいかないまでも有機結晶や生体物質は,得られる試料がμgとこれまでの物理の測定の常識に比べ非常に小さく,このような微量系の電子スピン共鳴の観測は,市販のX-band(9.5GHz)ESRでは非常に困難で,新しい高感度な電子スピン共鳴の検出法が求められている。そこで,本研究のねらいは,従来のX-band ESRがもちいている空洞共振器とは全くことなる原理であるカンチレバーを用いて,特に高周波数強磁場ESRで高感度を実現するところにある。昨年度は,分担者の大道と共同で東京大学物性研においてマイクロカンチレバーを用いたパルス強磁場ESR測定が可能であることを100GHzまでの周波数で実証し,特許出願をおこなった。本年度は,神戸大学の強磁場ESRシステムで同様の測定を可能にし,Co(NH_4)_2(SO_4)_2・6H_2O(Co-Tutton塩)単結晶を用いて4.2Kでマイクロカンチレバーを用いたパルス強磁場ESR測定を行うことに成功した。この結果測定の再現性が確認されるとともに,測定周波数を150GHzまでのばすことに成功した、なお,この研究に関する学会発表で,博士後期課程学生の木俣が電子スピンサイエンス学会優秀発表賞を受賞した。 またパルス磁場中と定常磁場中でのカンチレバーによる感度の違いを検証するため,東北大学金属材料研究所強磁場センターの定常磁場中でマイクロカンチレバーを用いたESR測定を行った.試料はCo-Tutton塩,試料体積~0.8x10^<-3>mm^3であった。測定はロックインアンプを用い,ブリッジ回路を交流バイアス電流で駆動した場合(電磁波に変調なし)と,電磁波の振幅に変調を加えた場合(バイアスは直流)の実験を行った。その結果,電磁波の振幅に変調を加えることでS/N比が大きく改善することが明らかとなった。
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