研究概要 |
スピングラスの磁化の緩和には特有の待ち時間依存性が見られる(エイジング現象).特に,温度摂動ΔT下での磁化の緩和に見られる若返り・メモリー効果はスピングラスのカオス性に起源があると予測されている。このカオス性はスピングラスを説明する理論の1つであるドロップレット理論に特有の概念である。一方、温度変化に基づく若返り・メモリー効果の起源がカオス以外にあるという見解もあり、カオスの存在を示すことには困難が伴う。そこで本研究ではスピングラス半導体Cd_<0.63>Mn_<0.37>Te(E_g=2.18eV、T_g=10.8K)への光照射を通してスピン間相互作用の変化ΔJ(ボンド摂動)の実現を試み、カオス性を検討した。緑色半導体レーザー(2.33eV)を光源とした。ここで、光照射強度を2枚の偏光板により制御し、その際生じる試料温度の変化を打ち消すように試料部温度を温度コントローラで制御することで、実験の全過程で温度変化が生じないような実験システムを構築し、純粋なボンドサイクル実験を試みた。 その結果、ΔJがスピングラスのダイナミクスに影響を与え、部分的な若返り効果を引き起こすことを観測した。この結果はカオス性の存在、およびドロップレットモデルの正当性を強く支持する。しかし、純粋なボンドサイクルでは磁気挙動に光強度および摂動時間の依存性が観測されなかった。これは従来の温度サイクルの結果とは大きく異なる。また、試料のバンドギャップより小さなエネルギーを持つ光を照射した場合でもエイジングに有意な変化が現れ、光吸収がわずかに生じた。これより、光照射によって実現されるボンド摂動ΔJは単にバンド間のキャリア励起を介して生じるのではなく、別の低エネルギー側での光吸収に主として起因するものと考えられる。
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