初年度である本年度は、偏極ヘリウム原子(電子の偏極)の生成に必要な赤外線領域の大強度レーザーの整備・較正と、偏極の保持に必要な磁場を生成するヘルムホルツコイルの設計・製作・較正を重点的に行った。 ヘリウム原子の電子偏極(スピンの偏り)を生成する為には、電子の量子力学的状態(エネルギー)に対応するレーザー(光子)を照射する必要がある。レーザーに関しては近年飛躍的にその性能を向上させているが、その中からヘリウム原子の偏極生成に要求される(1)赤外線領域(2)大強度(3)高い安定度、を同時に満たすものを精査した。色素レーザーは幅広い波長領域で用いられており強度も十分であるが、安定度に問題があり効率的に偏極生成を行えない。半導体レーザーは技術的進展が目覚しいが、現時点では波長・強度の面で不十分であるとの結論に至った。そこで今回は、ファイバーレーザーを導入し、その強度や安定度を測定・較正した。 まず安定度については、必要な波長1083μmの赤外線が、測定を行った数時間では優位なドリフト無く極めて安定に得られた。また強度についても、パワーメータによる較正から最大5Wが安定して得られた。強度は偏極ヘリウムが得られる体積と密接に関連するが、今回5Wの強度が得られたことで、100ccを超える体積を偏極させる目処がついた。 偏極保持の為には高い均一磁場が必要である。そこでTOSCAと呼ばれる磁場計算コードを用いて、ヘルムホルツコイルの設計を行った。レーザーで高出力が得られたことから、大容積に対して磁場が均一になるように特に配慮した。計算結果をもとにコイルを製作し実際に磁場を測定し、必要な均一磁場が得られている事を確認した。
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