本研究費により購入した偏光顕微鏡(NIKON)のセットアップを行い、薄膜中で成長するポリ-p-フェニレンスルフィド(PPS)球晶のin-situ観察により球晶中の分岐発生機構を明らかにする目的で研究を行った。球晶半径は時間とともに線形に増加し、拡散律速型の時間依存性は認められなかった。球晶中の各分枝は時間とともにその幅の増加が認められ、分岐が発生する前段階には、球晶最外部の液相との界面コントラストが低下すること、常態ではほぼ半円状をなす各分枝の先端形状が分岐直前に不定形となることがしばしば観察された。分岐の発生はその直後におこり、多くの場合2本の分枝に分岐した。各事例ごとに、分岐直前の分枝の幅はほぼ一定しており、その値から分枝の安定限界幅δを見積もることができる。古典的拡散律速モデルによればδは成長速度Gと拡散係数Dとの間にδ〜D/Gの関係があることが知られており、実測されたδとGから拡散係数Dを見積もることができる。その結果、見積もられた拡散係数の値そのものは極端な異常値を示すということはなかったが、成長速度の大きな温度依存性に比べてδの温度依存性がわずかであるため、拡散係数は温度の減少関数となった。拡散という物理現象の性格を考えた場合、この結果は考えにくいものものであり、成長速度が拡散律速型の温度依存性を示さない点も考慮すれば、球晶内での分岐発生機構は古典的拡散律速型のモデルで説明するのは適当ではなく、別の機構によるものであると考えられる。
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