中部山岳地域の八方尾根、西穂高岳、乗鞍岳、木曽駒ヶ岳、御岳、八ヶ岳において積雪全層採取を行い、全層の詳細化学分析を実施中である。なお、乗鞍岳においては、同地点で複数回の採取を行い時間変化を検討する。さらに、特異な濃度変化を示す木曽駒ヶ岳については、尾根から山麓までの多点でのサンプリングを実施した。各採取地点において積雪全層の断面観測を行い、層構造が攪乱されていないことを確認し、積雪全層を3cm間隔で採取した。採取した雪試料は清浄なビニール袋に入れて実験室に持ち帰り、実験室で融解した後ろ過し、pHおよび電導度を測定した。また、イオンクロマトグラフ(DIONEX : DX-500)により主要イオン濃度を測定した。 湿性沈着および乾性沈着によって大気から積雪中にもたらされた化学物質は、積雪表面からの融雪水の移動がなければ堆積した時の層に保存される。そのために、積雪全層から雪試料を採取することにより、初冬の積雪開始時から採取時までの積雪層の化学特性が時系列的に解析可能となる。 現在までのところ、次のことが明らかになった。 1.海塩起源物質であるNa^+やCl^-の濃度は、八方尾根、西穂高岳などの北アルプス北部では高濃度であるが、木曽駒ヶ岳や八ヶ岳などでは比較的低い濃度を示す。 2.黄砂が観測された際には積雪中のCa^<2+>やSO_4^<2->の濃度が大きくなる。 3.人為起源物質であるNO_3^-やnssSO_4^<2->の濃度は比較的どの地点においても高濃度の場合があり、特に、太平洋に近い地点での降雪では比較的高濃度になる。
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