本研究の目的は、過去の噴火で放出された気体成分の痕跡を火山灰、スコリアなど固体噴出物の中から探し、その時放出した火山ガスの化学組成や量を推定する方法論を確立することである。まず最初に、過去の噴火の火山ガスを保存している試料として、熔結した火山灰やスコリア中の気泡、あるいは火山ガラス中の気泡に着目し、気泡(100μm程度)の密閉性を破壊しないように薄片を作成し、顕微ラマン分光分析装置で気泡の化学種を特定する分析を試みた。試料としては放出された火山ガス組成が測定されている雲仙火山、有珠火山などの最近の噴火放出物や気体包有物が発達している広域テフラを用いた。しかしどの試料も最大成分であるはずの二酸化炭素すら検出できなかった。このことは気体包有物の主成分が水蒸気で冷却により殆ど真空状態になっているため、二酸化炭素はあっても気泡内の分圧が著しく低く、通常の顕微ラマン分光分析の検出下限以下であったと思われる。そこで次に、スコリア中に見られる斑晶鉱物のカンラン石中のメルト包有物に着目し、マグマ溜まりにおいてマグマに溶け込んでいる揮発性物質を顕微赤外分光装置とX線マイクロアナライザーで測定した。伊豆大島火山約2万年前の噴出物である095層のカンラン石中のメルト包有物では全イオウが最大1500ppm、水が3.5wt%に及び、過去には揮発性物質が多量に溶け込んでいたマグマが存在していたことを示した。また塩素は最大400ppm、二酸化炭素は検出下限以下であった。
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