昨年度立ち上げた隕石・地球試料を段階的に酸処理できる化学処理装置について、実際にキャニオンダイアブロ鉄隕石を入れて、実験を試みた。化学薬品は塩酸である。鉄隕石は、通常の測定である真空加熱法に寄ってもこれまで実験がなされているが、高温のメルト状態でも鉄からガスがなかなか抜けきらないことが前から指摘されていた。塩酸による溶解ならば、鉄が塩化物となって溶けるので、本装置を使った実験に最も適していると判断されたからでる。 U字管にはCaOを入れ、水分と酸の処理を取り除くようにした。また、本化学処理ラインを本実験室にある希ガス質量分析計の精製ラインと金属ベローズでバルブを介して直結した。そして、全体のラインの真空引きをおこなった。ところが、真空度がまるで下がらないのと、ガラスコックの開閉などの操作を行うごとに真空の度合いが大きく異なるというありさまであった。装置内に出てきたガスについて、その原因を探るため、アルゴンの同位体比を測定したが、大気の値と同じであった。ガラスコック部のグリスには、特に化学薬品に耐性があり、高真空度にも耐えるということで、Barrierta IS/Vを使用したが、このグリスからの脱ガスが原因と思われる。 また、もうひとつ大事なことがあった。鉄と塩酸の反応においては、大量の水素が発生することである。計算によれば、この大量の水素は現段階の処理能力を超えていることが判明したので、実験はそこでストップしている。 来年度は、グリスの選択を再度行うとともに、水素処理能力をあげた状況で本実験を行うか、あるいは、水素の大量に発生しない状況での化学処理実験を計画する予定である。
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