研究概要 |
本研究は,金山によって考案され原子スケールの構造を形成するための基本ブロックとなるクラスター成長に利用された新方式のイオントラップ(金山トラップと呼ぶ.1995年に論文公開.)において,イオンの空間電荷効果が支配的となった場合の特性を実験的に検証することを第1の課題とし,閉じ込められた荷電粒子の高密度化と制御性の高度化を第2の課題とするものである.その基本的な構造は直流の引力と交流電場による斥力を重畳して,閉じ込めポテンシャルを形成するところにある.原型では4本の中心電極に四重極の交流定常波を励起しているが,本研究の試作機では,一方向に回転する双極電場を励起する機能を付加した.このほか外部電極となる円筒壁は周方向に8片に分割し,周方向に回転する電場を重畳する機能と,分布制御のノブとして電極の軸方向に平行な磁場を重畳できる機能を加えた.加えて,イオン密度の空間分布を観測するために検出器のアレイを取り付けた. 最初の実験では,アルゴンイオンの電流の計測により閉じ込め時間を評価する方法を採用した.1μA以上を検出範囲とするこの計測法では,1ms以上閉じ込められるイオンは検出されていない.この感度に対するイオン密度は10^4cm^<-3>程度と評価される.これは実効的なポテンシャル井戸の深さ(1V以下)にほぼ対応するので,密度の限界であるとの判断が可能である.しかし手製の回路で発生した4チャンネル高周波電場のわずかな不揃いなど対称性の不足に因る可能性もあるため,制御系統の改善と,電流計測からはるかに感度の高い粒子計数方式への切り替え作業を進めている.その一方において,純実験的アプローチでは見えにくい過程を把握するため,シミュレーションによる解析を立ち上げた.重力系の研究用に開発された計算機GRAPE-6コードを活用して,高周波の中におかれた荷電粒子の自己場の寄与を評価し,実験指針の設定に利用する.
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