本年度は初年度ということもあって、新しい概念の確立に向けた基本的なデータを得るための実験を主に行った。その結果、以下のような成果が得られた。 長い軸を持つロタキサンの合成と構造:輪成分が軸成分上を動くために十分な長さの軸として炭素鎖12のアルキル成分を持つ2級アンモニウム塩を合成した。これとジベンゾ-24-ウラウン-8(DB24C8)の混合物を嵩高い酸無水物で処理し、末端封鎖により対応する[2]ロタキサンを合成した。このロタキサンのアンモニウム窒素上をアセチル化したものも合成した。CPKモデルや構造計算、さらにはNMRのNOE手法を用いた検討により、アンモニウム塩型ロタキサンでは、輪はアンモニウム窒素上に局在する一方、N-アシル化体では輪は自由に軸上を並進運動していることが確認された。 軸成分上のエステルの反応性評価:アンモニウム塩型[2]ロタキサンおよびN-アシル化体の加メタノール分解を行い、その反応速度を比較した。すなわち、カリウムt-ブトキシドを塩基として、二つのロタキサンをメタノール/塩化メチレン混合溶媒中で処理した。アンモニウム塩型ロタキサンでは、瞬時にエステルの分解反応が終了し、DB24C8と軸成分の一部が定量的に得られた。それに対し、N-アシル化体では24時間後も転化率は30%程度にとどまっていた。この結果から、二つのロタキサンの反応性の差は少なくとも約5000倍であると推測された。 以上の結果から、輪成分の並進運動によって軸成分上の官能基が著しく保護されていることが示され、立体的な嵩高さがなくてもその運動によって立体保護効果が発現すること、すなわち「動的立体保護」の可能性が示唆された。
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