マイクロメートルオーダーの流路幅をもつマイクロリアクターが有機合成化学における新しい反応場として期待されているにもかかわらず、光反応についてはほとんど検討されていない。本研究では、マイクロリアクターの特性を用い、炭素-炭素結合を効率よく、高選択的に形成できる光化学反応システムの開発を目的として研究を行ない、以下の成果を得た。 (1)1-シアノナフタレン誘導体の分子内(2+2)光環化付加反応をモデル反応とし、マイクロリアクターの材質、流路幅、流路の奥行き、流路長、流速、溶媒が反応の効率および選択性に与える影響について検討した。その結果、バッチシステムで行なった反応に比べて圧倒的に短時間で、かつ高選択的に分子内光環化付加体が生成し、特に流路の奥行きと流路長、流速によって反応効率と選択性が制御可能であることを明らかにした。 (2)アリールナフチルメチルエーテルの光クライゼン転位反応をマイクロリアクターを用いてフローシステムで行ない、バッチシステムで行なった反応と比較検討した。その結果、バッチシステムではオルト位への転位生成物、二次生成物であるメタ位への転位生成物、溶媒かごから抜け出した生成物であるメチルナフタレン誘導体とその二量体がそれぞれ得られたのに対し、マイクロリアクターを用いる光反応では流路の奥行き、流路長、流速により生成物の選択性と反応効率の制御が可能であり、オルト位への転位生成物をもっとも収率よく得る条件の最適化に成功した。反応効率の向上はLambert-Beerの法則により奥行きの浅さに起因し、選択性の向上はフローシステムによる一次生成物を反応系外へと追い出す効果によるものと推定した。
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