研究概要 |
マイクロメートルオーダーの流路幅をもつマイクロリアクターが有機合成化学における新しい反応場として期待されているにもかかわらず、光反応についてはほとんど検討されていない。本研究では、マイクロリアクターの特性を用い、高効率・高選択的な光化学反応システムの開発を目的として研究を行ない、以下の成果を得た。 (1)流路幅100μm、流路の奥行き40μm、流路長120mmのPyrex製マイクロリアクターに1-シアノ-2-(5-メチル-2-オキサ-4-ヘキセニル)ナフタレンのベンゼン溶液を0.1-0.01mL/hの流速で送液し、キセノンランプを用いて17-172秒間光照射したところ、ナフタレン環の1,2位への分子内光環化付加反応が効率よく進行した。また、9,10-ジシアノアントラセンと過塩素酸マグネシウムを用いる1,2-ジアリールシクロプロパンのシス-トランス光異性化反応も同じマイクロリアクターを用いるとわずか15秒間の光照射で光定常状態混合物を与えた。これに対し、直径1cmのPyrex製チューブを用いてこれらの光反応を行なうと、反応効率と生成物の選択性が著しく低下した。マイクロフローシステムは、光の効率のよい吸収と、目的生成物を反応系外へと押し出す効果に寄与しているものと推定した。 (2)反応効率の向上と収量の増加を目的として、高圧水銀灯に巻き付けるタイプのPyrex製スパイラルリアクターを開発し、光反応の反応効率に効果があることを見いだした。たとえば流路幅300μmのスパイラルリアクターを用いるとベンジリデンマロノニトリルのアリルトリメチルシランによる光アリル化反応の効率が飛躍的に向上し、40分間の光照射で5,5-ジシアノ-4-フェニル-1-ペンテンが定量的に生成することを明らかにした。
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