3次元型強磁性体[Ni(dipn)]3[Cr(CN)6]2.3H2O(dipn=dipropylenediamine)の磁気挙動への圧力効果を検討した。磁気測定用クランプセル及びダイアモンドアンビルセルを用いて加圧すると、磁気相転移温度(Tc)はほとんど変化せず、P=1.2GPa以上では低下した。その後、6.0GPaでは常磁性体となったが、圧力を開放すると元の強磁性体に戻った。圧力下での粉末X線回折測定より、加圧によっても空間群は変化せず、P=3.0GPaまでの加圧で三軸の長さが約4%短くなり体積が約16%減少することを確認した。また、P>3.0GPaの領域で若干ピークがブロードになりアモルファス化が進行したが、圧力を開放すると結晶性も回復した。構造の変化は、昨年度報告した3次元型フェリ磁性体[Mn(en)]3[Cr(CN)6]2.4H2O(en=ethylenediamine)と同様であったが、磁気特性変化は全く異なっていた。フェリ磁性体の場合は、Cr-CN-Mnの結合長が短くなり磁気軌道の重なりが増加した結果、反強磁性的相互作用が強まりTcが上昇するが、強磁性体の場合はCr(III)とNi(II)の磁気軌道が厳密直交しているため、Cr-CN-Niの結合長の変化が強磁性的相互作用には大きく影響せず、Tcはほとんど変化しなかったと解釈される。更なる加圧では、1)磁気軌道の重なりが生じて、反強磁性的寄与の増大、2)構造の歪みによる相互作用の分断、によりTcが低下して最終的に常磁性体となったと考えられる。強磁性体とフェリ磁性体の圧力下における磁性と構造の変化を比較することで、磁性と構造の相関と圧力の効果をより詳細に検討できた。
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