研究概要 |
「単分子磁石」は従来の磁石の概念を超えた新しい物質であると同時に、新しい記憶素子、応答素子として基礎、応用の両面から期待されている。現在のところ単分子磁石は僅か数種類の物質群に限られている。この事実は、単分子磁石を分子設計して分子レベルから合成することがいかに困難であるかを示している。これまでのd-系クラスター化合物の範疇をこえたd-f系化合物に単分子磁石を見出した。この新しいd-f系化合物では、分子レベルから容易に単分子磁石が実現できた。環状構造をもつ3d-4fヘテロ金属クラスター分子が高スピン基底状態を与えるのに有効であることを見出した。(T.Kido, S.Nagasato, Y.Sunatsuki, and N.Matsumoto, Chem.Commun.2000, 2113-2114. A cyclic tetranuclear Cu_2Gd_2 complex with an S = 8 ground state derived from ferromagnetic spin-coupling between Cu^<II> and Gd^<III> ions arrayed alternately.)高スピン状態は、S=1/2のCu^<II>とS=7/2のGd^<III>イオン間の強磁性的相互作用が集積した結果である。環状中空構造のために、Cu^<II>-Cu^<II>間には架橋配位子はないので、通常支配的に働くCu^<II>-Cu^<II>間の反強磁性的相互作用は無視できる程弱く、高スピン基底状態が実現できた。ここで、磁気的等方性のGd^<III>イオンを、より大きな磁気モーメントをもち、なおかつ磁気的異方性をもつTb^<III>、Dy^<III>イオンに替えて、高スピン状態と磁気異方性を兼ね備えた単分子クラスターを実現した。交流磁化率を測定して、単分子磁石に特有の現象である周波数依存性を見出した。
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