代表者らはこれまでに、(アルキル長鎖を持つカルボン酸)+(鋳型となるアミン)の塩からなるサーモトロピック液晶を利用し、液晶状態での重合を行うことで、ナノオーダーの規則正しい空孔を持つ有機材料を開発してきた。この研究の途中で、研究の初期段階には全く予想していなかった現象を見出した。架橋反応後に得られた物質は、架橋を行なう前のカラム状液晶相と本質的に同じ構造を維持しているが、この物質から鋳型となるアミンを取り除くと、規則正しく配列したカラム状構造は失われてしまう。しかしながら、一旦は規則構造を失ったこの物質に元の鋳型アミンを投与すると、最初と同じカラム状構造が復活する。三次元的に架橋された高分子がこのような動的構造変化を起こす例は珍しく、学問的にも実用的にも興味深い現象であるため、これを詳細に追跡することで、構造変化が起こるための条件を明確にすることを目指した。昨年度の研究により、(i)アミンの脱離/再法包摂という現象がカルボン酸-アミン塩の解離/形成に対応しており、他の副反応を伴わないこと、(ii)架橋高分子中の規則構造の度合いは包摂されているアミンの量に比例して増減し、包摂アミン量が30%になった時点で完全に消失すること、(iii)別の規則構造への転位は起こらないことが明らかとなっている。 そこで本年度は、アミンの脱離により規則構造を失ったアポ高分子に対し、再びアミンを包摂させる際の分子認識について調査した。即ち、再包摂させるゲストとして、元来の鋳型アミンとサイズ・形状・立体の異なるものを用い、規則構造回復の度合いを粉末X線回折測定により見積もった。その結果、いずれのゲストを用いた場合にも同じ面間隔に由来する3本の回折ピークが観察され、共通のカラム状構造が復活することが明らかとなった。回折ピークの強度に着目すると、興味深いことに元来の鋳型と同じアミンを再包摂に用いた場合のみ、特異的に強度の強い回折ピークが得られることが分かった。これは、規則構造を失ったアポ高分子がゲストのサイズ・形状・立体を認識する能力を有しており、ゲストの構造の僅かな違いが複合体全体の構造に反映されることを示している。
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