研究概要 |
1.弱い核力は自然界を支配する基本的な4つの力の一つであり、素粒子、原子を左右非対称(パリティ非保存)にする。近年、分子パリティ非保存性の理論がいくつか報告されているが、キラル分子間のエネルギー差は10^<-15> J/molと極めて小さいと予想され、重元素効果ならびに高分子による増幅検出による実験的検証を進めている。本年度は、不斉基を含まないポリシラン(poly[n-decyl-isobutylsilane],PDBS, Mw=1x10^4-2x10^6)と1組の高純度リモネン((S)-,(R)-体)、貧溶媒から得られたμmオーダーの微粒子系を用い、(1)分子量依存性、(2)回転方向依存性、(3)リモネン純度依存性、(4)凝集体サイズ依存性、(5)リモネン濃度依存性について検討した。 2.結果:(1)分子量依存性:顕著な分子量効果が認められ、特にM_n=33Kにおいて、(R)-リモネン/PDBS系は(S)-リモネン/PDBS系よりg_<abs>値の絶対値に3倍の差を与えた。また第1Cottonバンド波長(λ_<ext>)も(S)-(R)間で大きく異なり、ポリシランらせんピッチに違いが示唆された。(2)回転方向依存性:溶液の回転方向に依存したキラリティー発生が報告されているが本系では左回転撹拌系と右回転撹拌系で凝集体のg_<abs>値に有為差は認められなかった。(3)リモネン純度依存性:リモネンee値とg_<abs>値・λ_<ext>値とは非対称かつ非線形な挙動を示し、(S)-(R)間に明らかに違いが認められた。(4)凝集体サイズ依存性:凝集体分散液を各種孔径のメンブレンフィルターを用い、ろ液のg_<abs>値を測定した結果、有為さは認められなかった。(5)リモネン濃度依存性:顕著なリモネン初濃度依存性が認められ、(S)-(R)間にはg_<abs>とλ_<ext>値に明らかに違いが認められた。(これらの結果は、第54回高分子討論会(1B20/1PA040)ならびに第14回ポリマー材料フォーラム(1PC09)にて発表した。また、特許出願した) 3.このようにPDBSと高純度リモネン((S)-と(R)-)の間に約3倍のgabとλ_<ext>値とに再現よく有為差が観測された。分子パリティ非保存性を検出している可能性が高まってきた。
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