研究概要 |
常温において液体状態の塩,すなわちイオン性液体は,通常の固体塩と同様にカチオンとアニオンのみから構成されているが,実際に液体状態になるかどうかはカチオンとアニオンの組み合わせの種類によって決まる.そのため,カチオンとアニオンを何らかの方法でマニピュレートすることができれば,塩の性状を液体-固体の間で自由に相互変換できるデバイスが構築でき,さまざまな方面への応用が期待される. 本研究では,イオンをマニピュレートする方法として導電性高分子へのイオンの電気化学的ドープ・脱ドープ反応を用いる.導電性高分子鎖を電気化学的に酸化すると高分子中に生じた正電荷を電荷補償するためにアニオンがドープされる.逆に導電性高分子鎖を還元すると高分子中の負電荷を補償するためにカチオンがドープされるが,カチオンがドープ・脱ドープする導電性高分子は,有機溶媒電解液においてポリチオフェンなどで数例が報告されているに過ぎず,イオン性液体中におけるカチオンのドープ・脱ドープ反応の例は全く報告されていない.そこで16年度では,イミダゾリウム系,4級アンモニウム系カチオンをもつイオン性液体中において,ポリチオフェン系導電性高分子へのカチオンの電気化学的ドープ・脱ドープ挙動を詳細に検討した.その結果,トリメチルn-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TMPA-TFSI)など数種のイオン性液体中において,カチオン・アニオンの両方が明瞭にドープ・脱ドープすることがわかった.さらに,カチオンのドープの反応性がカチオンよりむしろアニオンの種類に,逆にアニオンのドープの反応性がカチオンの種類に大きく依存することを示唆する結果を得た.これは,イオン性液体中ではイオン濃度が極端に高いため,カチオン・アニオンがお互いにイオン対を形成していることと深く関係しているのではないかと考えている.
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