研究概要 |
糖尿病による高血糖状態はヘキソサミン合成経路を異常に亢進させ,これにより様々な合併症が起こるのではないか考えられている。本研究では,ヤマウルシ(Rhus trichocarpa)の樹皮から抽出した物質を対象として,この経路の律速酵素であるグルコサミン-6-リン酸合成酵素(L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミドトランスフェラーゼ;GFAT)の活性を阻害する植物成分の精製と同定を行った。 平成16年度には,以下の解析を行った。 1.ヤマウルシの樹皮のエタノール抽出液と,この抽出液のクロマトグラフィー分画をTOF-MSで調べたところ,質量939.3[M-H]^-にピークを持つ成分(分子量[M]は,940.3と推定される)が両者で検出された。 2.次に,1.のクロマトグラフィー分画をHPLCにより更に精製して,2種類の化合物を単離した。 3.これらの化合物を用いて質量分析とNMRによる構造解析を行った結果,両者とも加水分解性タンニンであり,それぞれ1,2,3,4,6-pentagalloyl-β-D-glucose(分子量940.6)と3-digalloyl-1,2,4,6-tetragalloyl-β-D-glucose(分子量1092.7)であることが判明した。 4.3.の加水分解性タンニンのGFAT活性に対する作用を調べたところ,大腸菌GFAT(原核生物型GFAT)活性にはほとんど影響を与えず,酵母GFAT(真核生物型GFAT)だけを選択的に阻害することを確認した。 平成17年度は,上記の加水分解性タンニンの構造と阻害活性との因果関係を多面的に評価することで,構造上,より有効な阻害効果を示すのではないかと推定される他の加水分解性タンニン誘導体について検討した後,動物実験による糖尿病合併症の予防・治療効果の探索へと進む予定である。
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