研究概要 |
AICARは細胞膜透過性が低く,また細胞内ですばやく代謝されるので,AMPKを活性化させるためには過剰量の投与を必要とする.脂溶性の高い2位置換AICAR誘導体はこの欠点を克服できると考え,既に開発した方法を応用してその合成を実施した.塩基部にアリール基を導入した核酸類縁体は抗ウイルス剤や抗腫瘍剤の候補化合物として盛んに合成されているので,置換基としてアリール基を選択した.また,その導入反応には安全性と環境負荷を考慮して,鈴木カップリングを用いることにした.まずAICAR自体を出発原料としてその臭素化を試みたが,望む反応は進行しなかった.そこでアデノシンを出発原料として,その臭素化,鈴木カップリング,トリオールの保護,酸化的脱アミノ化,アミナール保護基の導入,それに続く開環反応という合成経路を考案した.実際の反応の結果,最終的に目的とするフェニル基,置換フェニル基,複素環置換基,及び置換ビニル基を有する7種類の2-アリールAICAR誘導体の合成に成功した.今回合成した2-アリールAICAR誘導体はまったくの新規化合物であり,2位置換AICARの系統的合成法を確立することができた. 次に,AMPK活性化の活性本体がAICARの一リン酸化物(ZMP)であることから,合成ターゲットをZMP類縁体に拡張した.実際には,細胞内で加水分解されやすい糖リン酸エステルを,分解されない糖ホスホン酸に置き換える分子設計をもとに以下の合成を実施した.保護されたイノシンから出発して,アルデヒドへの酸化,ホスホン酸の導入,続く水素添加によってイノシンホスホン酸エステルを得た後,AICARへの変換反応を利用して目的物合成を達成した.また,ZMPの糖リン酸エステル結合の酸素原子を窒素原子で置換した類縁体は細胞内加水分解酵素の基質になりにくいと考え,その合成研究を実施した.
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